prologue

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ドンペリニヨンシャンパンフルート。 シンプルで美しく、重量感のある、クリスタルグラス。 そしてテーブルには、恭しく箱に収められた、ピンクのドンペリ。 「おおーっ」 葛西さんは少し興奮したような声を出す。 「…開ける?」 その笑顔が眩しくて。 私はドキドキと高鳴る胸を、左手でぐっと抑え込む。 「…ちょっと、緊張してきた」 ポンと小気味よい音が部屋に響き、淡い桜色の液体が美しい曲線のグラスに注がれる。 しゅわしゅわと細かな泡が、柔らかな光を灯す照明に反射して揺れていた。 「おめでとう」 「……ありがとうございます」 間近で絡まる、瞳。 くすくすと笑いながら、葛西さんの腕が私へと伸びてくる。 「駄目だ、――。 俺、ちょっと、ヤバいかも」 刹那、甘い香りの影に襲われて。 「…んっ」 キスしてるって気付いた時にはもう、唇は離れた、あと。 鼻と鼻がくっ付きそうなくらいの、至近距離。 葛西さんの瞳が、真っ直ぐに私を見つめていた。 「…亜澄」 下の名前で呼ばれたのは、初めてだ。
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