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「帰れ。そろそろ帰れ」
「断固拒否する」
狼狽した。さすがにもう家にはいないものだと思っていた。身体から力が抜ける前に、肩にかけた学生カバンが滑り落ちた。
お話は昨晩。やけに早く流れる雲海が三日月を隠してしまってから20分後あたり。ひび割れた街頭が光っては消えた頃。
◆◆◆
トントン、と規則的な打撃音が窓を叩く。
言わずもがな、その時点で窓から吸血鬼が入ってくるとは思いにもよらなかった私は、睡眠直前の寝ぼけ眼を擦りながらカーテンを引いた。
風が強いのかな、といった程度の好奇心だった。
しかし、次に現れたスーツの男を見て思わず「ひゃん!!」と叫んでしまっていた。尻餅をつく。
バサ、バサ。
窓を開けてもいないのにカーテンが風になびく音がする。
それはカーテンの音ではなく、男の背中に生えた漆黒に濡れる羽によるものだった。
バサ、バサ。
バタ。
◆◆◆
「登場するまでは格好よかったんだけどね」
「人間の感性は理解できんな。私ぐらいの魔界の貴公子にもなれば何をしても格好いいものだろう」
「現れるなり貧血で倒れる貴公子のどこが格好いいのよ」
げ、ゲバラァ!! 途端にそんな声がした。しかし、驚きはしない。出所ならわかっている。彼の膝の上で眠るピンク色の猫が吐血したのだった。
彼が連れてきたものだ。
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