工場見学

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 今日は小学校の社会授業の一環として工場見学の日。工場長は身なりを整え、緊張した様子で小学生の一行を乗せたバスが来るのを待っていた。定刻通り、バスが工場の入り口前にやってくきた。  教員に付き添われて生徒はバスを降り、工場長の前に綺麗に並ぶと声を合わせて、 「きょうはよろしくおねがいします」と、実に子供らしい元気な挨拶だ。 「工場長。今日はよろしくお願いします」  生徒とは別に教員も工場長に頭を下げた。工場長は豪快に笑う。 「ワッハッハッハ。そんなに改まった挨拶は結構ですよ。立入禁止になっている危ない場所にさえ行ってもらわなければ、何の問題もないのですから」  工場は幾つもの施設に分けられていた。今日は比較的、危険な箇所が少ない施設を案内してもらうことになっている。生徒は教員の指示に従って整列したまま、第二工場へと進んだ。  案内される第二工場は比較的、安全とはいえ、衛生面はしっかりとしている。雑菌を持ち込まないよう消毒の行程がある。工場長や作業員にとって慣れ親しんでいる消毒液の香りも、初めの人には強く感じる。霧状の消毒液を吸って咳き込む子もいた。  出入り口は閉められ、防護服を着せられた生徒と教員は最初の部屋へと向かった。そこには特殊なガラスケースに収められた液体が幾つも置かれてた。天井からの特別な緑の光りの演出も相まって、この部屋は近未来的というよりも、神秘的な空気を感じた。生徒はその光景に目を輝かせながら魅入っている。 「えー。ここは培養室になっております。ここでは、精子と卵子を人工交配させ個々の状態を安定させる為の部屋なのです」  工場長はペンライトを片手に培養室の説明をした。相手は子供なので、説明の殆どは掻い摘んでだが。もっとも、そんな小難しい説明など生徒には不要だった。ただ、純粋にこの神秘的な部屋に見とれ見学するのに一生懸命だった。工場長と教員の言うことをよく聞いて、生徒はガラスケースには触れないよう離れた場所から液体の中で培養される生命体を見てた。  一昔前とは違い、培養技術も大きく躍進している。まるで、早回しの映像でも見せられているかのように胚が変化している様が拡大鏡で見られる。  人工的ではあるが、生命が生み出される場所という意味では、神秘的という言葉が確かに似合うかもしれない。
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