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ただ、クローン人間が運ばれた先についての質問にだけは、
「今日のところは秘密だよ。みんながもう少し、大きくなったら教えてあげるよ」
と言い、話を濁した。
生徒は工場長の話を聞き、クローン人間が運ばれた先を想像する。いったい、そこではどんな楽しいことがあるのか。分からないだけあって好き勝手な想像ができた。
「さて、今日はここまでだけど、今日は君達にだけ特別なプレゼントがあるのだよ」
「プレゼント!」
工場長の言葉に生徒は目を輝かせた。単純である。クローン人間の行く末よりも、プレゼントという言葉の方が彼らの心を掴んだのだから。
「なんと!今、この工場で君達のクローンをつくってあげるサービスをしているんだよ!みんなも自分のクローンを見たいよね!」
「はーい!」
生徒は声を揃えて言った。自分のクローンをつくってもらえるなど、こんなに嬉しいサービスはない。生徒は先を争うようにして、工場長に自分のクローンの材料となる髪の毛を差し出しだ。髪の毛のDNAを人工的に造った精子と卵子に組み込んでクローン人間を造る。もはや、この時代では当たり前の技術であった。
ただ、どんなに培養が早いといっても時間はかかるもので、精子と卵子を造るところから始まる。この子達にある程度、成長したクローン人間を見せられるのは、数年先、中学生の半ばぐらいの話になる。
小学校に入学して二年ぐらいの生徒にとってはずっと、先のことだ。だが、今は純粋な子供にとって何より楽しみなのだ。もう一人の自分と将来、何をして遊ぼうかそんなことを友達を語り合っている。
工場見学は終わり、生徒はバスに乗って小学校へと帰る。工場長はそれを見送った。
「工場長。明日は中学校の社会見学になっていますが」
「やれやれ・・・。もうそんな季節か。今、さっき、小学生を送ったというのに今度は中学生か。時の流れとは早いものだな」
工場長はそんなことを呟きながら、事務所を通って出荷の最終段階である第五工場へと向かった。途中、事務所のテレビでは戦争のニュースが流されていた。
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