道程

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「あー、山口だっけ?」 「ひどっ、疑問形なんて冷たいなあ」 へらっと笑いながら馴れ馴れしく腕に手を掛けてくる。 なんだこの女、もう酔ってんのか? 「まだ一人なの?こんなにイイ男なのに勿体ないわね。 いい加減に手塚さんを諦めて、わたしと付き合わない?」 ますます体を寄せてくる。 濃い香水の匂いにイライラしてきた。 「いや、彼女いるよ、来年結婚するんだ」 「「「「ええ!」」」」 その場にいたほぼ全員が声を上げた。 「ちょっと、あんたそれ本当なの!?」 田嶋が山口を押しのけて、詰め寄ってきた。 「嘘なんかつくかよ、本当だ」 「勇生、知ってた?」 「俺だって初耳だよ」 田嶋に睨まれて青くなる角田。 それ、おまえの嫁だろ。本気で恐れんなよ。 「今初めて言ったんだ、誰も知らねえよ」 そう言ってグラスのビールを飲み干した。 「あんた、志保の事もういいのね」 眉間に皺を寄せて俺を見ていた田嶋が訊ねてくる。 ここにいる奴らは俺が志保の事を 好きだったことを知っている。 志保が行方不明になった時、俺が半狂乱で探し回ったから。 「俺が手塚を忘れる訳ないだろ?」 「なっ、それじゃあ今付き合っている彼女は? 志保の事、想ったまま結婚する気? そんなの酷過ぎる。妊娠でもさせた?」 「バカ言うな。それに彼女は俺が一生かけて 手塚を大切にして行く事に納得してるから」 「ばか、そんな結婚幸せになれる訳ない!」 田嶋が泣きそうな顔して叫ぶ。 「もう決めたんだ」
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