第1話

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 谷崎潤一郎「春琴抄」を読んだ翌日のこと。  盲人に出会った。  春琴抄に感動していた僕は、「あなたは、盲人ですか?」と聞いた。  相手は、訝しがりながら「ええそうです」と答えた。  では、谷崎潤一郎の、これこれと言う小説がありますがご存じですか、と聞くと、  「知らない」と言う。  そうですか、と言って、「春琴抄」の内容を言って聞かせると、  「そうですか。」  と、盲目の主人公、春琴さんの生活振りに、興味を示しつつも、  「でも」と続けて言う。  「でも、盲人はとても怖いんです、道行く人の流れの中を歩くのは、とても怖いんです。たまに、手を引いてくれる人があっても、大抵の盲人は、見ず知らずの人に、手を引かれることを嫌がります」  「はあ……」  「高校生くらいの男の子たちに、突き飛ばされて、バッグを引ったくられたこともあります。バッグも、お財布も、障害者手帳も、無事に返ってきましたが」  「はあ……。そりゃひどい……」  「コンビニでも、荷物お持ちしましょうか、と声を掛けてくれるのは、有り難いけれど、その小さな親切が、返って迷惑なんです」  「はあ……」  「なんというか、少しだけの気遣いが足りないというか、優しい無関心でいて欲しいんです。優しい見守りをしていて欲しいんです」  「はあ……」  議論は、段々私の押されぎみになった。  「久々に長く話して、疲れてしまいました、今日はこの辺で、ありがとうございました」  「ありがとうございました、この辺で」  その後、二人は別れた。
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