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谷崎潤一郎「春琴抄」を読んだ翌日のこと。
盲人に出会った。
春琴抄に感動していた僕は、「あなたは、盲人ですか?」と聞いた。
相手は、訝しがりながら「ええそうです」と答えた。
では、谷崎潤一郎の、これこれと言う小説がありますがご存じですか、と聞くと、
「知らない」と言う。
そうですか、と言って、「春琴抄」の内容を言って聞かせると、
「そうですか。」
と、盲目の主人公、春琴さんの生活振りに、興味を示しつつも、
「でも」と続けて言う。
「でも、盲人はとても怖いんです、道行く人の流れの中を歩くのは、とても怖いんです。たまに、手を引いてくれる人があっても、大抵の盲人は、見ず知らずの人に、手を引かれることを嫌がります」
「はあ……」
「高校生くらいの男の子たちに、突き飛ばされて、バッグを引ったくられたこともあります。バッグも、お財布も、障害者手帳も、無事に返ってきましたが」
「はあ……。そりゃひどい……」
「コンビニでも、荷物お持ちしましょうか、と声を掛けてくれるのは、有り難いけれど、その小さな親切が、返って迷惑なんです」
「はあ……」
「なんというか、少しだけの気遣いが足りないというか、優しい無関心でいて欲しいんです。優しい見守りをしていて欲しいんです」
「はあ……」
議論は、段々私の押されぎみになった。
「久々に長く話して、疲れてしまいました、今日はこの辺で、ありがとうございました」
「ありがとうございました、この辺で」
その後、二人は別れた。
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