第0話「夢」

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   手にするはーー器。  長く尖る角の中身をくり貫いたようにして作られているその器は、  まさに【神】と喚ばれる、神聖なる者が持つに相応しい、黄金色に輝く器だった。  中には色とりどりに封じ込められた「力の奔流」が底に見え、  踊るかのように一転、二転と形と色を変え、【神】成らざる者を嘲笑う。  その様子を横目に見つつ、漆黒の羽を伸ばす一人の少年は表情を強ばらせる。 「……やはり見ていて気持ちのいいモノじゃあないな、ソレは。叶うのならすぐにでも壊してやりたい。  君に何の罪も無いんだけどね。すごく個人的な願望に過ぎないんだが……」  あからさまな態度をとる少年は舌打ちを鳴らし、今すぐにでも破壊してやりたいといった己の欲望を剥き出しにする。  「神成らざる者」。  云わば「天使」という、神の遣いとされる使徒。それは一人では無く、数名ほどの選ばれた者だけが与えられし「力」を有した者達。   神から与えられ、魔を祓い、浄めてきたとされる力。  少年もまた、「神成らざる者」の一員であり、「破滅」を司る力を有していた「天使」……だったモノ。  「神成らざる者」である「天使」であった少年から、天使としての力を剥奪し、本来すべきである「力の相違互換」すらも無く、  白銀に輝いていた彼の翼を漆黒に塗り潰し、奪うだけ奪って捨てられた。  いくらその「器」が彼に力を与えてきたからといえど、自らの有していた力を剥奪されようとは予測も何も無く、余りにも無造作に『奪われた』。  何故奪われたのか。  その理由が明かされたからと言えど、漆黒に染まってしまった彼の翼が、再び輝きを取り戻すことは無い。 「ソイツはまさに、この僕に力を与えた。同様に、ソイツは僕から力を『奪った』。  多分見えるはずだよ、器の中に煌めく奪われた僕の力だったものが。  ……とは言っても、奪ったのはその器だけでは無い。ソイツはただ自分の役割を果たしたまでさ、『器』としての役割をね」  器を破壊することは容易い。  怒りに身を任せ、中に埋めく力の奔流を世にばら蒔くことすら容易く犯せる罪はある。  ーーだが、それだけでは「意味が無い」。
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