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そう呟くと、少年は目を瞑り記憶の海へと探りを入れる。
タイトル……とは言ったものの、もはや小説でもなんでもないただの『夢』を書き写しただけの文章である。
だからこそシンプルに。太陽に照らされたノートの端に、小説を大きく書き記す。
「タイトルは……まぁ、『夢』でいいだろ。夢で見ただけの話だし。ーーさてと、飯食って学校行く準備しねーとな」
独り言をこぼしつつ、少年は部屋の扉を開けて下へと降りてゆく。
少年がつけたタイトルには特にこれといった意味は無い。
意味が、そして価値があるのはその「内容」にある。
世界の変革を望む一人の男と、その男に器を託した一人の少年。
ーーこれらは全て事実であり、そして全てが『虚無』へと葬り去られた。
故にこの物語の真の意味を知る者は、この世界には【五人と満たない】。
それが何を意味するのか。
畢竟、その五人が【世界の変革】が起きることを、すぐそこまで迫っているという事実に『気付いている』のだ。
……そう。たった今、世界の変革を引き起こす、引き金(トリガー)が弾かれたのだ。何も知らぬ少年の手によって。
『持たざる者』である少年は、書き記すために使っていた百均のペン如きがトリガーになるとは思いもしなかっただろう。
当然、この時少年は考えもしなかった。
ただの夢物語であったはずの夢が、悪夢でも白昼夢でもない、少年自身の運命を大きく翻すことになるとは。
器ーーその意味を知ったときこそ、彼にとって全てを理解するための鍵となる。
ーーただ、まだその物語をここに書き記す訳にはいかない。
始まったばかりなのだから。少年の、全てをかけた物語は。
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