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序章「災難」
夕焼けが真っ赤に燃え、二人のボーイミーツガールを照らし出すロマンチックな背景。
多くの住宅街が建ち並ぶその中で、少女は手渡されたコピー用紙に目を通す。
コピー用紙。そう、ラブレターでも何でもない、ただひたすらに拙い文章が並び立てられた醜い文体を、彼女は『読まされていた』。ロマンチックな背景をバックに、素人が書いた糞にも満たない小説未満の文章を。
これがラブレターであったらと思う少女は、ロマンチックさなど欠片も感じさせない、まるでゴミでも見ているかのような目でその用紙に目を通す。
彼女の正面には、期待感を一切隠すことなくあらわにする少年がワクワクとした表情を浮かべ少女の反応を待つが、そんな彼の事などお構い無しに、少女は睨みつけてただ一言呟く。
「ゴミね」
純粋かつ率直に、口から転がり落ちた感想は酷く冷めたものだった。
故に、その率直な感想は期待感をあらわにしていた少年の表情を一瞬にして凍りつかせるには十分すぎた。
少女は、そんな彼の反応を気にかける事なく続ける。
「ーーそれで? もしかしてこんなへったくそな文章を私に見せにきたの? わざわざ? 何のために?」
「何のためって……そりゃあ、少しは面白いと言ってくれるかなーって……」
「そんな発想ができる貴方が大変に面白いわ。ま、そんなところが愛おしくもあるんだけど。ーーけどね太陽。これは残念ながら……」
ペラペラと紙を捲る音だけが、真っ赤な太陽に照らされている少年の耳奥に響いてゆく。
少しは「面白い」と言ってくれるだろう……と。そんな淡い期待をしていた少年だったが、彼女のリアクションは想像とは大きく異なっていた。
たったの数ページにしか満たない小説(もどき)を、彼女は何度も何度も目を通し。
「ただの紙くずよ」
最終的には、一纏めにして思いっきり破り捨てる。
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