第1章

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 小柄で温厚な雰囲気の老紳士は市井と名乗り、どこから聞きつけたのか私の窮地を知っていた。  市井は私に同情を寄せ、借金の肩代わりをする代わりに、自身の経営する新聞販売所で働かないかと持ちかけてきた。  条件は、販売所の借り上げている単身者用のマンションに入り、9時~5時の勤務で折り込み広告の作業員および事務員として働くというものだった。  休みは日曜祭日、マンションは無料、月給30万円プラス残業代、そこから毎月15万円づつの返済をすれば良いという。  しかし、寮費が無料で月給30万円の堅実な仕事などあるはずがなく、話にはしっかりと裏が有った。  市井と付き合いのある片桐という会社社長と、週に1度程度食事をしろというのだ。  いくら世間知らずの私にでも、それが言葉の通り食事だけの付き合いで済むはずがないことは分かった。  要するに肉体関係を求められているのだった。
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