第1章

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 2ヶ月前、夫が轢き逃げ事故に遭い亡くなった。  勤め先である都内の銀行から、終電で小田急梅ヶ丘駅に辿りつき、自宅まで徒歩5分の夜道を歩行中の事だった。  即死だった。  今尚犯人は捕まっていない。  悲しみに暮れる間もなく、次なる衝撃が私を襲った。  初七日を終えた日、葬儀で会ったばかりの夫の上司が再び我が家を訪れた。  そして、夫が多額の横領や不正融資に手を染めていたことが発覚したのだと告げられた。  横領金額だけで約5千万円にのぼっていた。  銀行側の意思は、不正融資に関しては夫だけの責任を問えないものの、横領に関しては自宅を売り払い、速やかに弁済すれば公にはしないというものだった。  就業規則によって、死亡後でも懲戒解雇扱いとなる為、退職金は支払わないとも言われた。  「奥さん、旦那さんの行為はれっきとした犯罪ですよ。これが公になれば、あなただけでなく、実家のご家族まで悲しませることになりますよ」
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