第1章

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 犯罪、実家、という2つの言葉によって、私は躊躇することなく自宅の売却を決意した。  住宅ローンは、契約時の団体信用生命保険というものが功を奏し、夫の死と同時に返済義務がなくなっていた。  しかし自宅を売った2千5百万円、旦那の死亡保険で得た1千万円、それに貯蓄を合わせても、銀行への弁済にはまだ1千万円が不足していた。  銀行側は、直ぐに支払えないのであれば借用書を書けという態度だった。  四国の田舎で兄の家族と同居する両親に、1千万もの大金を無心する気にはなれなかった。  結婚を決める段階で私はまだ学生であり、当然のごとく実家からは反対された。  それを押し切る形で嫁に出た者としての意地が有った。  夫の実家には相談したものの、まず銀行の言う横領や不正の事実を確認したいという態度だった。  確かに一理あるとは思えたが、事実をはっきりさせるということは、イコール警察の介入ということになっただろう。  夫の実家とてそれは回避したかったはずだ。  数回の話し合いを経た結果、婚姻関係に有ったのだから負の財産も妻が負うべきだという態度が、夫の実家から段々と見え始めた。  銀行からは年利たったの4%で良いからと借用書へのサインを急かされた。  私は半ば自棄糞気味にサインに応じた。  事後報告として打ち明けた友人の茜曰く、夫が生きていればともかく、死んでいるのに妻に弁済義務があるのか。  また死後の懲戒解雇が妥当であるのかも弁護士に相談すべきだったと言うが、時既に遅しだった。
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