第2話 失われるもの

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叔父さんが声をかけると、じいちゃんは私を確認した。 「よく来たな…寒くないか?」 「大丈夫だよ」 私は少し大きめの声で、はっきり答えた。 「あ、叔父さん、こちら、私の旦那さんになる裕次(ゆうじ)さんです」 「あ、そうなの?結香の叔父の勝(まさる)です」 「あ、どうも」 私の彼もなかなかの人見知りだ。 「じいちゃん、どうなの?」 「あー、もうほとんど食事もしないね」 だいぶ進行している様だ。 「そっか…」 「結香、子どもいるんだって?」 「うん、そうなの」 「悠斗(ゆうと)や慶斗(けいと)を見てるから、知ってるかもだけど、大変だよ?」 悠斗と慶斗は叔父さんの子どもで、私の従兄弟にあたる小学生4年生と1年生だ。 二人の元気っぷりには付いていけない。 「いつから一緒に住むの?」 「安定期に入って、お正月空け位ですね」 私が彼を見たので、彼が答えた。 「ああ、それくらいが良いだろうね」 そんな話をしていると、今まで一人でよく分からないことを喋っていたじいちゃんが突然 「今、アパートとかを借りると、いくら位するんだ?」 「え、何?」 突然だったので、よく分からなかったみたいで聞き直すと、もう一度言ってくれ た。 「ああ、アパートとかね…いくら位?」 「2LDKで6万~7万くらいですかね」 叔父さんが聞くと、彼が答えた。 「6万か7万位だって」 じいちゃんに大きな声で教えてあげると 「あー、そうか…」 と言ってまた一人の世界に旅立った。 「こうやって時々通じるんだけど、基本的にこんな感じだからな…」 叔父さんは寂しそうに言った。モルヒネを投与されてるから、幻覚や幻聴があるみたいだ。 一人で何か喋っていたり、何かを掴もうとする仕草をしたりする。 本当にもう先長くないんだな…。 今日来ておいて良かったかも。
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