第2話 失われるもの

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「年内持つか分かんないってよ」 「そっか…」 私はじいちゃんの横に立った。 「じいちゃん、私ね、お腹に赤ちゃんいるんだよ?じいちゃんトショ(注1参照)だよ」 「ああ、そうなのか…?」 一応反応はしたけど、理解したかは別問題だ。 「6月頃に生まれる予定だからさ、それまでに良くならないと」 「………」 ぽーっとしてる…ってか、寝てる? 「ちょっと疲れちゃったかな?」 「寝てんの?」 「いや、目が半開き」 叔父さんの問に答えた。 「そしたら、そろそろ帰ろうかな」 「時間かかるしね」 彼が同意した。 「じいさん、結香が帰るってよ?」 「あぁ…気ぃつけてな…」 じいちゃんは寝転んだまま、天井に向かって手を振っていた。 「じゃあ、叔父さんも、またね」 「おう、ありがとね」 「すみません、失礼します」 彼は頭を下げながらドアを閉めた。 「じいちゃん、だいぶ進行してた…」 「そんな感じだね」 私達は乗って来たのと同じエレベーターを目指しながら話した。 「そろそろお腹空かない?」 「うん、空いた」 「ご飯食べて行こうか」 「うん」 私達は再びエレベーターに乗って、1階に降りた。 出入口に向かうと、受付には相変わらず人がたくさんいる。 「寒っ…」 病院の中は適温に保たれているので、外が酷く寒く感じられた。 「天気は良いけど、風がね」 午前中より風が強いみたいだ。 私達は近くのレストランで食事を済ませると、また車で2時間の道のりを帰った。 注1→母の実家の方言で曾祖父母のこと
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