笑みは無い

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私の“笑う”という感情が消えたのは一年前の事だ。 ちょうど仕事が終わって今日の晩御飯を考えながら駐車場まで向かっている時、不意に私の携帯へ一本の着信が入った。 「幸雄が亡くなった」 それは夫からの電話であった。 しかし、夫が次々と喋る言葉を理解することができない。 言葉が分からないとか、難しい言葉があるからではない。 その言葉を拒絶していた私の脳が、言葉を理解させないように何も考えられなくなっていたのだ。 数十秒ほど固まっていただろうか、夫の「大丈夫か!?」という大きな声で我に返り、病院へと車を飛ばした。 幸雄が、息子が亡くなった。なぜ? ……嘘であってほしい。そう、今日はエイプリルフール。どうか嘘であってほしい。 病院へたどり着くまでよく事故を起こさなかったものだと、今になっても思うときがある。 どこをどう通ったのかも覚えていない。ただ、幸雄の事で頭がいっぱいだった。
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