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「いや、それにね。その島には無人の家がいくつも建っているそうなんだ。その島の近くを通る船で何人ものひとが目撃してるらしいんだ。でも、その怖い言い伝えがあるから誰もそこに足を踏みいれて調べたことはないんだそうだ」
「それであなたがそこへ行って調べてみようと思ったわけ?」
「まあ、そう言う興味もあるんだけど、それだけじゃないんだ。実は、このアラマ諸島は世界有数の透明度を誇る海や美しいサンゴ礁が広がってるんだけど、石垣島などの八重山や宮古島ほどに観光開発が進んでいないんだ。それで、いまの柿本首相がアラマ諸島の観光インフラ開発構想に非常に積極的で、今度の島嶼サミットでもそれを彼のスピーチに盛り込んで大々的に宣伝しようということらしい。これは、いろいろ新聞記事やツイッターとか見ていて分かったんだけどね」
「でも、インフラ開発とか言うと、その綺麗な海が汚されることになるんじゃないの?」
「朋美さん、良いこと言うね。それだよ。僕が興味をもったのは。アラマ諸島海域は世界有数のサンゴの生息地で、その保護を約束するラムサール条約にすでに登録されているんだ。だから、その趣旨に反することはできないと思うけど、周りの観光インフラが充実して観光客が大勢やってくるようになるとそれなりの悪影響は十分懸念されるよね。当然のように自然環境保護の人たちはその開発構想には猛反対なんだ。だから、僕は開発が実現する前にそのアラマ諸島に行ってみたいと思ったんだ」
「そうだったの。秀太さんってなんかすごく勉強家だね。尊敬しちゃうよ」
「でも、その生き霊が棲むという島にも興味があるんでしょ」
晶子が秀太に尋ねた。
「そうだね。開発となると当然、その島も対象になるだろうから、その前に行ってどんなところか見てみたいと思ったんだ。でも、やっぱり命をなくすという伝説は怖いから、みんなの言うように行かない方が正解かも。ハハハ」
それでバスの中でのこのやり取りは終わったが、晶子は生き霊(いきりょう)という言葉が少し気になった。
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