第10話 生き霊(いきりょう)の島

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 会議室の中は赤いカーペットが敷かれ、正面奥に演壇がありその前は長机と折りたたみ椅子が間隔をおいて並んでいた。すでに、十名ほどの高校生が到着していた。座席は自由と言われたので晶子を真ん中にして三人は並んで前の方の席に座った。 「何だか、お役所って緊張するね」  自由気ままの朋美には、こういう格式めいたところは苦手のようだった。 「任命式って言ってたけど、何をするのかしら」  晶子は警察には何度も出入りしているが、外務省は初めてでやはり緊張していた。 「お役所は手続きや、形式ばったことをするのが好きなのよ。最初にお偉いさんのご挨拶があって、それから資料とサミット会場の通行パスのようなものをくれるのよ」  この言葉に、晶子は凛子が(原宿セブンティーンをプロデュースするだけあってお役所慣れしてるなぁ)と、思った。 「ところで、晶子、あなた一度わたしの祖父の道場に来てほしいのよ」 「えっ。また、秘剣のこと?」 「凛子は意外と執念深いところがあるのね」 「朋美にまでそんなこと言われたくないわ。でもね、実はわたしよりも祖父の方があなたに会いたがっているのよ」 「えっ。あなたのお爺さまが?」 「そうなの、祖父によるとあなたの秘剣は光明寺流奥儀である『破邪の剣』と深いかかわりがあるそうなのよ。それで、あなたにぜひ会いたいって、とってもうるさいの」 「そう、わかったわ。今度の日曜日でいいかしら」  晶子もなぜ、あの用務員小屋の裏庭で田中省吾と立ち会ったとき思いついた奇策を凜子たちが「秘剣」と呼んでこだわるのか、そのわけを知りたいと思った。 「ありがとう、恩にきるわ。で、朋美も来る?」 「もちろんよ。わたしは秋葉高校剣道部のマネージャーなんだから」  やがて、午後二時半になり、任命式が始まった。凛子の言うとおり晶子たちは女性職員から外務省の茶封筒に入った資料をごっそり貰った。そして、外務大臣の挨拶が五分ほどあった。そのあと男性職員から配布資料や利用できる交通機関と宿泊施設などの説明があり、沖縄で会場となる万国津梁館(ばんこくしんりょうかん)に出入りの際などで、首から下げる顔写真入り通行パスをひとりひとり手渡された。
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