第10話 生き霊(いきりょう)の島

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            ***  日曜日の午後、晶子は朋美と一緒に、凛子が描いてくれた地図を頼りに光明寺流派の剣道場を訪ねた。道場は閑静な住宅街にあった。裏手は大きなお寺だった。板塀に囲まれた門には「光明寺流派剣道場」と大書された古い木の看板が掛かっていた。  門を通ると、開け放たれた道場の広い玄関口があり、その前で朋美が大声で「たのもーっ!」と叫んだ。晶子は朋美の時代劇の道場破りのような物言いに可笑しくなった。奥の方から「どうぞ」という凜子の声があり、晶子たちは土間より一段高い玄関を上がり、道場に向かった。  格子窓から差し込む秋の陽光で明るい道場には凛子と光明寺玄斉が剣道着姿で晶子たちを待っていた。凛子は白い道着で、白髪を長く両肩に垂らした玄斉は濃紺の道着だった。道場の中はまさに凛とした緊張感があった。晶子と朋美は、道場奥に祭られた神棚を背に座る玄斉にペコリと挨拶した。 「よく、来てくれましたな。わたしが凛子の祖父の玄斉じゃ」  そう言った玄斉に促されて、晶子と朋美は凜子が玄斉の前に用意してくれた丸い座布団にそれぞれ座った。 「わたしにお話があると聞いてまいりました」 「うむ。晶子さん、あなたが秘剣を使うと田中省吾から聞いた時、わたしはこれは何かの因縁かと思いましてな」 「因縁?どういうことですか?」 「それは生霊族に関わる因縁じゃ」 「えっ。どうして、生霊族をご存じなんですか?」 「我が光明寺流奥儀の『破邪の剣』は生霊族が使う姿なき暗殺剣、すなわち『秘剣』に対処するために編み出されたからなのじゃ。晶子さん」 「それは、いったい何時のことなんですか?」 「光明寺家に代々伝わる古文書によると、応仁の乱の後、世の中が混乱の極みだった頃とある。いいですかな、当時、生霊族という透明人間たちが暗殺集団を組織していたのじゃ」 「生霊族の暗殺集団?それは、どういうことですか?」 「晶子さん、この暗殺集団は諸国の守護大名たちからの依頼を受けて、大名同志の勢力争いの中で敵対勢力となる大名たちを次々と暗殺していったのじゃ」 「それは、伊賀とか甲賀とか言われる忍者のことではないんですか?」
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