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――……
もうもうと白い水蒸気が立ち込める風呂場に九龍はいた。
三助役を買って出た源三が背を流している。
「ありがとうございました」
「何をだ」
「私の無念も晴らして頂いたことです」
「嗚呼、それは事のついでだ」
傷一つない九龍の背中を泡立つ布でゴシゴシと擦る。
「それと日向様に譲って頂いたことも」
「ふん、知らぬと言ってるであろう」
源三は知っていた。
誰よりも門下生の無念を自らの拳で晴らしたかったのは九龍だということを。
そして、その気になればあの一撃でアルフレッドを殺すこともできたはずだということも。
「でも、よくわかりましたね。私が屋敷へ転送させるなんて」
「あんな奇術札(転位チケット)に大金を使いおって。今後の生活はどうするつもりだ」
九龍自身も源三が何を行うつもりなのか把握していたわけではない。
だが、源三が必ず日向の想いを汲むであろうことを知っていた。
"師弟という強く深い絆で結ばれた二人に多くの言葉はいらない"
「そのことでしたらご心配には及びません。ハッキングのついでに解放軍の資金を全てウチに移しておきましたので」
桶に湯を汲み、ゆっくりと掛ける。
「は、はっけんぐ? なんじゃ、それは」
「あ、いえ。何でもございません。それより、お風呂から上がりましたら、私から御屋形様に是非確認して頂きたい品が御座いますので、今宵はそちらをゆっくり拝見いたしましょう」
「ほう」
「実は、ついでに解放軍施設の監視カメラもハッ……記録したんです。そこに破廉恥かつ不埒な輩(やから)がいないか確認しなければなりません」
「言っている意味がわからんが、破廉恥かつ不埒な輩とは"けしからん"な」
「はい。特に更衣室やお手洗い、浴槽など"けしからん"輩がわんさか映っているはずです」
「まったくもって"けしからん"のだな?」
「そりゃあ、もう、かなりの"けしからんさ"でございます」
「それは遺憾(いかん)な。よし。早く、出るぞ」
「はい」
奇妙(破廉恥)な絆でも結ばれていた二人にもまた多くの言葉はいらなかった。
この後、監視カメラで録画した映像を観ている現場を日向に見つかり、二人は屋敷を追い出され修行の旅に出ることになる。
サタン討伐に九龍と源三が加わるのはまだ先の話だった。
第三話へ続く
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