岸和田 清 その1

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「もしもし」  僕は電話を取る。番場には「俺が取る」と言われていたけれど、番場は今ここにはいない。隣の部屋にずっとこもっている。  副委員長が可哀想だ、とは思うけれど、そのおかげで美知子は助かっている。そう思ったら、ありがとうと言うべきだろう。  美知子が不安そうな目でこちらを見つめる。  僕が命令を無視して電話を取ったから、何かされるのかもしれないと不安なのかもしれない。 『あ、誰だ? 番場じゃない、よな?』 「えと、僕は岸和田……っていうんだけど」 『シラネェな』  キミはむしろ知り合いのほうが少ないだろ、と言いかけたのをグッと堪えて 「それで何の用?」 『用も何も、謎が解けたので教えようと思ってな』 「それ、本当かい?」 『嘘吐く必要があるか? もう時間もない。ここで意地悪して得があるのかよ、考えろ、バカ』  峰岸の態度の悪さは噂で知っていたけれど、こうも癪に障るとは思わなかった。けど、僕は大人だ。すぐに悪口を言う人間なんて所詮、子ども。聞く耳は持たない。
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