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不躾に言って、僕は電話を放置して、隣の部屋に向かおうとする。
「キヨくん……なんだって?」
「僕じゃ話にならないみたいだ」
美知子が心配して話しかけてくる。僕はその笑顔だけで勇気と元気をもらえる。美知子となんとしてでもここを脱出する。僕はそう決意している。
「番場のところに言ってくる。あっちが副会長を呼んでいるんだ」
「でも……それじゃ……」
「たぶん、勝手に電話を取ったことに怒るだろうし、殴られるかもしれない。でもここから出るためだよ。キミが傷つかないなら、僕は気にしないし気にならない」
「キヨくん」
美知子がホの字で僕を見ている。男冥利に尽きるとはこのことだろうか。
番場が激怒する様を想像して、殴られる様を想像して、ストレスを、痛みを想像して、覚悟を決める。
「行ってくる」
うん、と美知子がうなずく。その可愛らしさにキスしたくなるが、堪える。今は甘さは不要だ。
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