岸和田 清 その1

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 コンコンと叩いた音に気づいて、「なに……?」  死んだ魚のような目の柏が扉の隙間から顔を覗かせる。  柏も可哀想なやつだと思う。僕だとたぶん発狂している。  柏は飯塚を殺したあと、番場の言いなりになり、裸のまま、副委員長が犯されるのを見せ続けられている。  好きな人が――と言ってもこれは柏の態度からの推測でしかないけれど、自分の好きな人が、犯されている光景を見せつけられるというのはどんな気分なんだろうか。  顔色は飯塚を殺したときから青ざめていて、その気分は窺い知れない。  大丈夫か、と言いかけたけれど、「大丈夫か」と飯塚を殺したばかりの柏に言った誰かに柏がブチギレていたことを思い出して言いとどまる。 「電話があって、その出たら……副会長を呼んで欲しいと」 「ちょっと、待ってて」  そう言って柏が扉を閉める。
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