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いや、言い直そう。
俺は柳丘さんを受け止めた…迄は良かったんだが、生憎カルシウムに見放された俺は牛乳が好きなのに中学から背に進歩はない。まぁ勿論そんな俺が女子の中では背が高い部類の柳丘さんなど止められる筈もなく、後ろ向きに転げ落ちた。
どれくらい時間が経っただろうか。
身体中が痛い、思うように身体が動かない。弱々しく目を開けると朝日が昇っていた。
「ってぇ…」
俺の口から『誰か』の声が零れた。
「え…?」
続け様に零れた声も自分のそれではない。
「…はぁ?」
状況が理解出来ない。この声は俺じゃない、『誰か』の女の声だ。
俺は立ち上がり川辺へ向かって走った。
ただ今の自分がやけにおかしい。
「はっ…はぁっ…うわっ?!」
川辺で止まるつもりが足をもつらせてすっ転び、川へと落ちる。
川は深くはない。せいぜい深いところでも膝下ぐらいだ。
ゆっくりと起き上がり、ずぶ濡れになった自分を水紋が響く水面で確認する。
すっとした輪郭
黒い長髪
うちの女子の制服
小さいとは言えない胸
…俺の姿は柳丘 雪葉そのものだった。
「なんだよ…これ…」
自分の『自分でない』白い手を見る。状況が掴めない。
「はぁ…君は、女をずぶ濡れにする趣味でもあるのか?」
後方から、ため息混じりの『俺の』声が聞こえてきた。
「お前はっ…」
振り返り様に発した言葉に詰まる。そりゃそうだ。目の前には俺じゃない『俺』の姿をした奴がいたからだ。
「…そうだ。私は、『君』だ。」
そいつはそう言った。
…なるほどな…どうしてそうなったかは知らないが、どうなったかは理解出来た。
「入れ替わった、のか?」
「そうだ。私が君になり…君が私になったようだ。」
そう低くも高くもない、俺が発していない俺の声が告げる。
「で…もう一度聞くが…」
状況が掴めない俺に対して彼は、優しく笑いながら言った。
「君は人の体をずぶ濡れにさせて楽しいのか?」
俺の姿をした柳丘さんは怒っていらっしゃった。
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