序章 ~始まり~

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「ったぁ…殴らなくてもいいだろぉ…」 俺は頭をさすりながらそう言った。 「私の体で変なことをするからだ。全くこれだから男子は…」 本を読みながら歩く柳丘さんがため息混じりに呟く。 「だからあれはわざとじゃないっていってるだろぉ…」 俺はさっきからちゃんと足がもつれた事を説明してるのに、柳丘さんは全く許してくれない。 「経過がどうであれ、結果はそうなったんだ。言い訳は無用だ。」 その上本の角で叩かれる始末。 「っ…つぅぅ…お前の体なんだぞ?」 涙目で俺は柳丘さんに訴える。 「ふん、別に今私は痛くない、故に問題ない。」 いや、俺に問題があるんだよ… そう思ったのを悟られたように、今度は軽く頭を小突く柳丘さんであった。 「ここか?」 「おう、俺の住んでるアパートだな。」 なんとなく胸を張って言ってみた。 「…ボロいな(ぼそ」 泣いた。 「お、おい?!な、何故泣くんだ!別にいいじゃないか、うん!私は好きだぞこういう古ぼけた雰囲気!」 柳丘さんが今までと違い声を張ってフォローしてくれた。なぜだろう、全く嬉しくない。 「ぅぅ…家賃安いのここしかなかったから仕方ないだろぉ…」 何故か俺は今日の朝から女々しい気がする…あ、女だからか。 「まぁ、気にするな。別に落ち込む事はない、住むところがその人の全てではないからな。」 柳丘さんが上手くまとめたけど、事の発端はあんただ。 俺の家に入ると、ちょっとした廊下の奥にこぢんまりとした部屋が2つある、うん…俺の家だ。 因みに俺が使ってる部屋にはキッチンがあるため、もう一つの部屋はほぼ使っていない。 昔適当に始めたギターやベースが眠ってたりする。いわば物置だ。 「ふむ、これはまた奇妙な構造だな。」 柳丘さんは腕を組みながらそうつぶやいた。 「まぁ…確かにそう言われればそうだよな。トイレと風呂は玄関入ってすぐだし、もう一つの部屋は俺の部屋からしか行けないしな。」 誰だよこんな部屋借りたの。 …あ、俺だ。 「ふむ…まぁ、仕方なく我慢してやるか…。」 俺の部屋に入って床の座布団に座りながら柳丘さんはそう言った。 「何を我慢するんだ?」 俺はもちろんそう尋ねる。 「あぁ、そうだな。趣旨をまだ伝えていなかった」 柳丘さんはこちらに目を向け、静かに言った。 「今日から私はここに住む事にした。」
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