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兄のノボルは、コダマと一緒に祖母の所にやってきた。
まだランドセルを背負っていたコダマの目には、ノボルは数年のうちに一足飛びに大人になってしまったように映った。
その後家を出たノボルと、十何年も会うことはなかった。
何の前触れもなく突然戻ってきた兄からは、昔の面影を探すことすらできなかった。
伸びきった髪は襟元にかかって、着崩した黒いシャツに眼帯という有り得ない姿である。
「あなたは本当に私の兄のノボルちゃんですか?」
「他に誰がいるんだ、優しくてカッコイイお兄ちゃんが帰ってきたぞ。ほれ、胸の中に飛び込んできたっていいんだぞ」
コダマは、会えなかった間に、ノボルに淡い幻想を抱いていたらしい。
間違いなくこれは自分の兄だ。
そう、この人は元からマトモな感覚は持ち合わせていなかった。
だからこそ、あのやり場のない気持ちをノボルには感じずにすむのかもしれない。
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