私を墓まで連れてって

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「クロノス・・・・・・」 「安心しろ。死んでいようが俺はお前の夫だ」 その言葉に、カイアは顔をくしゃくしゃに歪ませて、 「ありがとう・・・・・・本当にありがとう」 そう言って、涙を流す。 息が無くとも、鼓動がなくとも、体温がなくとも、心がある。 感情がある。 それは生きている証でもある。 カイアは死にながらも、確かにこの世に生きていた。 「礼なんて言うなよ。こういうのは苦手なんだ」 「いいのよ。そんな不器用な所が好きだったんだから」 カイアの言葉に、クロノスは恥ずかしそうに顔をそらした。 そして話を誤魔化すように、 「これからどうする。お前は一体どうしたいんだ?」 「そうね。私はやっぱりもう死ぬべきなんでしょうね。何とか眠る方法を調べなくちゃ」 「このままじゃ、駄目なのか?」 「うん、それは駄目。私はあなたにもう何もしてあげられない。昔みたいに料理を手伝うことも出来ないし。それに何より、一緒に歳をとれないじゃない。そんなの私は嫌なの」 妻がそう望むなら、夫も従うまでだった。 「だが調べるって、どうやって?」 「そうねぇ」 カイアは墓標をじっと見ながら、 「12月3日・・・・・」 「お前の誕生日だな。墓石に刻まれてる」 「ねぇ、クロノス。もしかしたら私、魔女なのかも」 「はぁ?」 「おばあちゃんが言っていたの。私たちの血族が最初に娘を産む時、必ず12月3日になるって。そしてその日に生まれた女の子は魔女になるって」 「お前が蜘蛛を食ってる所も、蛙を丸焼きにしている所も、ホウキで空を飛んでいる所も見たことないぞ」 「当たり前よ。だからこの話を忘れていたんだし。でもおばあちゃんが死ぬ間際、私にこう言ったの。『お前が死んだときは、おばあちゃんと一緒の墓に入りなさい。12月3日に生まれた血族には、決められた墓があるんだよ』って」 「ということは」 「私は本当に魔女で、その決められた墓に入らないと眠れないってこと、なのかな」 当然、信じられる話ではない。 だがその信じられる話ではない出来事が、目の前で起きている。 「試してみる価値はあるな」 そう言いながら、クロノスはカイアに手を差し出した。 「それじゃあ行くか。お前の故郷にある墓に」 カイアはその手を強く掴んだ。 「ええ。私を墓までつれてって」 end
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