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「この間…ごめんね。私かずに酷い事言って…」
「何か言ったっけ?」
俺の頭の中は疑問符だらけだった。
むしろ酷い事を言ったのは俺で、謝るのも俺の方なのに…。
「大学の時、かずも浮気された事あったって里子に聞いて…」
「…あぁ…、その事か…」
ーーー里子の奴、余計な事を…ーーー
昨日の夜、秋恵が暗い顔をしていた理由はこれだったのか。
あの頃受けた深い傷を、里子にだけは話す事が出来た。
里子は秋恵にも話していると思ったのだろう。
「かずが浮気を否定するのはそれだったんだね。
酷い事言ってごめんなさい…」
少し俯きながら、消えそうな声で呟いた。
昨日地元に向かう道で果たせなかった決意が甦る。
この空間に響く、力強くも暖かい歌声が再び『決意を実行に移せ』と俺にメッセージを送っている様な気がした。
「俺解んない訳じゃないよ。彼氏が居ても他の人を好きになる気持ち。
ただ隠れて会ったりとか、浮気が許せないだけ」
走る先の信号が赤に変わり、車を停めた。
助手席に目を移すと、今にも零れそうな涙を作りきれない笑顔で必死に隠している。
「秋恵…、お前にだけはして欲しくなかったよ」
「……」
「佳春さんに心が戻らないなら仕方ないけど…。
後悔しない答えを出すんだぞ?」
「…はい」
大好きな歌声に乗せて“俺の想いを伝える”という決意を実行に移した。
秋恵…。
お前には幸せになって欲しいんだ…。
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