Side 和斗  真実

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また月日は流れた。 里子に聞いて貰えた事で、修二とも普通に接して居られる。 今日は客も少なく、店の中には2人きり。 嫌でもあの日を思い出す。 「マスター、もう閉めますか?」 「あ、うん。閉めるか」 「表、closeにして来ますね」 カウンターの左端に座っている修二にそう告げて、扉に下げている札を裏返す。 自分でも気付いていた。 無意識に修二を避けている事に。 大きく息を吐き出して店の中へと戻った。 「和斗? これからヒマか?」 「こんな夜中に何するんですか…」 「…ちょっと俺の酒に付き合ってくれないか?」 「いいですよ。マスターの奢りなら」 正直、修二と2人きりになると何を話して良いか解らなかった。 “楽しい飲み会”なんて雰囲気じゃないから尚更。 でも俺は“気まずくなんてないよ”と、笑うしか出来なかった。 「ここで飲むんだよ」 「やっぱり。 ま、店の酒なら修さんの奢り同然だ」 「それもそうだな」 “修さん”と呼ぶ事で、仕事からプライベートへとスイッチを切り替えた。 カウンターの中に入り、ジョッキにビールを注ぎ始める。 これから起こる『裏切り』なんて、想像もしていなかったんだ。 「…まず先に、和斗に謝らなきゃいけないんだ。 すまない…」 「はい?」 カウンターに座ったまま、修二は俺に向かって頭を下げた。
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