Side 和斗  新しい人生

6/13
前へ
/242ページ
次へ
翌日。 まだ半分眠っている体を起こして、修二の家に向かった。 奥さんと子供の姿は無く、修二と一緒に車で何往復かして引っ越しは終了。 店の近くの部屋で日当たりは良好。 今日からここで新しい人生をスタートさせるんだ。 「和斗、ありがとな。助かった」 「お安いご用ですよ」 「たまには外に飲みに行くか」 「あ! いいですねぇ。でも店は?」 明るい時間に始めた筈なのに、すでに太陽はその身を隠している。 ダンボールが積み重なる狭い部屋で、置く位置も定まらないソファに修二が腰を掛けた。   その隣に疲れた体を降ろす。 「今日休みにしようと思ってたし。 飯奢ってやるよ。手伝ってくれたお礼に」 「マジで!? やった!!」 秋恵が居なくなってしまってから、誰かと酒を酌み交わす事なんてなくなっていた。 修二はこの街に秋恵が居ないなんて、夢にも思っていないだろう。 修二の離婚 秋恵の同棲 両方を知っている俺に、何が出来る? 2人にしかない笑顔を取り戻す為に…。 「なぁ、修さん? もう聞かないから、最後に聞いていい?」 「ん?」 「…本当に秋恵の事、もういいのか?」 隣に居る修二の目線は感じるけど、俺は修二を映せなかった。 きっと秘密を打ち明けた時と同じ様に、落としそうな涙を堪えているのだろう。 気を抜くと口にしてしまいそうな心を抑え込んだ。 『秋恵も今のアンタと同じ顔をして、            アンタを諦めたんだ』 『秋恵を迎えに行ってくれよ…』
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加