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「あの…佳春さんから連絡って来ます?」
「たまーにな。
営業課長に昇格したから忙しいって言ってたけど…」
「それだけですか?」
「? うん。何で?」
予想通りの答えだった。
浮気していた事を知る親友に“彼女と同棲してる”なんて話さないよな。
「…転勤したの知ってます?」
「え?」
「○○の支店に転勤になってるんです。4月に」
「そうだったのか…」
目を丸くして遠くを見つめていた。
これから話す事は必ず修二を傷付けるだろう。
佳春を信じて“親友の彼女だから”と諦めてしまった想い…。
どれだけ時が流れても消えない“愛”…。
また修二を苦しめてしまうだろうか。
「秋恵には言うなって言われてたんですけど…。
秋恵も引っ越して同棲してるんです」
「…え?」
目線は合ってる筈なのに修二は俺を見ていない。
“同じ街に居ると思うだけで
会えなくても生きてゆける”
知らない方が幸せだという事もあるよな…。
ーーカランーー
「いらっしゃいませ~」
客が来た事を知らせる鐘の音は、俺達の話を中断させる。
動けずにいる修二の代わりにカウンターへと足を進めた。
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