Side 和斗  後悔

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「和斗? 俺あがっていいか?」 「…話、まだ続きがあるんです」 「そっか…。 じゃ閉めるか。もう来なさそうだし」 「はい」 時は日付を変えていた。 修二はずっと上の空。 女の客と話していてもその声は耳に届いておらず、かみ合わない。 『今日のマスターは変ね』なんて言われる始末。 仕事終わってから話せば良かったかな…。 店の扉に下げている札をcloseに変えて、修二はいつもの左端の席に腰を降ろした。 それと同時に酒の入ったグラスを目の前のテーブルに置く。 「で、何? 続きって…」 「今日店に来る前見ちゃったんです。 今日だけじゃなくてこの前も…」 「何を?」 数時間前に見た光景が頭の中に甦る。 誰が見ても幸せそうなカップルで、秘密を抱えてるなんて思わなかった。 「…佳春さんと…なっちゃん…、 2人で手繋いで歩いてた…」 「…は?」 「最初見間違いかなって思ったんだけど、今日はハッキリ見た。 さっき秋恵に“お前も佳春さんも元気か?”ってメール送ったら…」 「??」 ケータイを操作し、受信メールを表示させて修二に手渡した。 何度読み返しても心が苦しくなる。 悲しみを押し殺して、偽りの文字を打ち込んでいるアンタが浮かぶから…。
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