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「嫌だよ」
「そう言うと思ったよ」
秋恵が街を出て行く前に見せていた作り笑いは、姿を消していた。
秋恵もまた、修二と別々な道を歩んでいた日々が己を強くしてくれたのか。
今日修二に呼ばれたという事は…。
何かしらの形で2人の恋は前に進むのだろうか。
カタン
「あ、マスター。お帰りなさい」
「ただいま。悪かったな」
修二が裏口からカウンターに姿を見せた。
「いいえ、全然。
飲んでる奴1人しかいませんから」
「あき…、久しぶり」
「うん」
各々の目に互いの姿を映し出した瞬間、2人は微笑み合っていた。
その光景を見ながら俺も自然と笑みが零れる。
「修さんも飲みますか?」
「うん」
2人をずっと見ているとなぜか涙が溢れそうで、グラスを取りに裏へ下がった。
やっぱり遠く離れたって、愛する人は想い出になんてならないよな…。
修二のグラスにビールを注ぎ、カウンターに置いた。
「「「カンパーイ!!」」」
今日もまた大好きなグラスの音で幕を開ける。
なぁ、修二?
今日秋恵との再会で、俺の願いは届いたと思ってもいいよな…?
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