77人が本棚に入れています
本棚に追加
/335ページ
ルシエルは武器商の店を出た。
身長が伸びてきたので、弓を替える相談をしたあとだった。
商人に頼めば、喜んで自宅へ何種類も持ち込んでくれるだろうが、店の裏にある射的場で実際に試してみたかった。
競技会用ではない。
実戦に使えるものでなくてはならないのだ。
動く的を正確に打ち抜き、そして正確に外せなくてはならない。
西の空が赤い。
染まる雲の群を見て、ルシエルの足は急いだ。
今日は、父親が帰ってくる。
その足を止めさせたのは、ある屋敷の門の前で泣いている少女の姿だった。
小間使いなのか、フリルを飾った可愛らしいお仕着せを着ている。
金色の巻き髪にレースのボンネを乗せている姿は、まさに愛くるしいお人形というところだろう。
湖水のような青い目を、泣き腫らしてさえいなければ。
薔薇色の唇の端に、叩かれたむごい跡さえついていなければ。
「どうした?」
驚かさないよう、抑えた声で話しかける。
「‥‥クールラント家の若様‥‥。」
最初のコメントを投稿しよう!