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ルシエルは目の前の可憐な少女を見、派手好きの老嬢を思い浮かべた。
おそらくシンクレア家の老嬢は、予想以上に外見の良い使用人が手に入ったので、気に入るように着飾らせて、あちこち連れ歩くことにしたのだろう。
自分の見栄を満足させるアクセサリーのように。
お気に入りの着せ替え人形のように。
本人の気持ちや向き不向きなどお構いなしに、自分の虚栄心を満たしたのだ。
そのくせ、思い通りに小間使いが務まらないとなると、かんしゃくを起こして無力の使用人に当り散らす。
商店のほうも商店のほうで、支払いに来たシンクレア家の小間使いが、仕事に不慣れな文盲であることを見抜いて、わざと釣りをごまかしたのかもしれない。
どっちにしろ、まったくこの街にふさわしい連中じゃないか、とルシエルは妙に納得する。
ルシエルは鞄の中から財布を出し、少女に小さな金貨を握らせた。
「い、いけません、若様。」
「これで足りるだろう?
余るぶんには執事も文句はないだろう。
もう、遅くなるしね。」
「ルシエル様‥‥。」
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