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少女の頬の涙をすくいとり、唇に人差し指をあてる。
「僕が助けたことは内緒だよ。
大丈夫。神様はちゃんと君を見ているよ。
悪い連中には、いずれ罰がくだるからね。」
罰がくだる、とふくみを持たせて言うルシエルの姿を、通りすがりに見やるもう一人の少女がいた。
買い物籠を抱えたガリュー家の女中、アスターだった。
「遅いので心配しておりました。」
自宅に帰りついたルシエルを出迎えたのは、家庭教師のエレノアだった。
「お帰りなさいませ」と一礼する使用人たちにルシエルは天使の微笑を返す。
下女の一人が足元にひざまずいて、靴の汚れを落とし始める。
その間に上着を脱げば、控えている女中の一人が、そつのない動きで鞄とともに受け取り、部屋へ運んでいく。
「ルシエル様の身に何かあったら、わたくしは旦那さまに顔向けできませんもの。」
エレノアが艶然と微笑む。
その姿は、実際の年齢よりずっと若やいでいる。
つやのある黒髪を夜会巻きに結い上げて、透き通るような白い額を出している。
男性が着るかっちりとした黒い上着を着こみ、しかし、その開いた襟元からは、とろみのある絹のブラウスをのぞかせている。
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