第5章 クールラント一族

8/17

77人が本棚に入れています
本棚に追加
/335ページ
この甲冑の主を無傷で守るため、どれだけの名も無き兵が犠牲となったのだろう。 眺めているだけで、その怨嗟の声が足元から這いのぼってくるような寒慄(かんりつ)を覚える。 (この家は、人の苦しみを糧とする化け物の巣窟だ。 そして俺は、その血を受けた末裔なのだ。) 誰か、後ろをついてくる足音が聞こえる。 「ルシエル様、少しお話が。」 エレノアの猫なで声が首筋にからむ。 「なんでしょうか?」 「庭にある古い馬屋を、取り壊そうと思うのですが。」 「は?」 ふいをつかれ、ルシエルは動揺を隠しきれない声を上げた。 「ルシエル様、最近あそこへ行かれましたね。 庭師が見ておりましたの。」 「み、見間違いでしょう。 そんなはずはありません。」 エレノアは余裕たっぷりに笑う。 細めた黒瞳は、鼠をいたぶろうとする猫の目だ。 「いいえ、かまいませんのよ。 ルシエル様がどこへ行かれようと。 あなたの自宅なのですから。 ですが、あれはもう老朽化して、あぶのうございますね。 ですから、いっそのこと取り壊してしまおうと。」
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加