77人が本棚に入れています
本棚に追加
/335ページ
ルシエルはエレノアの眼を見据え、真意をはかろうとする。
(この女はどこまで知っているんだ。)
「もちろん、旦那様の許可があればですが。
それを今日、うかがいたいと思っているのです。」
「そうですか。僕は別に。」
ルシエルは語尾を濁す。
落ち着け、と自分に言い聞かせる。
(馬屋へ向かうのを庭師に見られただけだ。
ディコンがみつかったわけじゃない。)
そもそもあの地下室のことは、自分と馬丁の老夫以外誰も知らないのだ。
しかし、エレノアが不審を抱いているのは確かだ。
これまでより、一層気をつけて行動しなくてはならない、とルシエルは自戒する。
ルシエルの反応にエレノアは満足そうな顔をした。
何がしかの弱みをつかんだ、と確信したのだろう。
あなたのことなど全てお見通しですよ、と言いたげな笑みを残し、階段を降りていく。
その背中を、思わずきっとにらみ、ルシエルが声をかける。
「馬屋といえば、あのお爺さんは、どうしたんでしょうね。
馬丁のお爺さんは。
僕をあんなに可愛がってくれたのに、何も言わずにいなくなってしまった。
彼がどこへ行ったのか、あなたはご存知ですか?」
最初のコメントを投稿しよう!