第5章 クールラント一族

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クールラント夫人は朝から出かけていた。 今日は、孤児院の援助活動を一緒に行っているオーランド夫人と一緒だった。 家へは、昼間に使いをよこし、「まだ用事があるから」と簡単に言付けただけで、食事の時間にも帰って来なかった。 これは、いつものことで、クールラント家の使用人たちはみんな承知のことだった。 それでも、かたちだけ夫人の席は用意され、ナフキンと皿が並べられ、同じ料理が供された。 ルシエルはそこに、盛装の母の姿を想像してみようとしたが、うまく思い出せなかった。 礼服を着たシエルの後にはエレノアが控えている。 ほっそりした長い首には三重の黒真珠のネックレス。 ピーコックグリーンの輝きが黒髪黒瞳に映える。 使用人とは思えない装いだ。 エレノアは、もともとルシエルの乳母としてクールラント家にやってきた。 屋敷に住み込みでルシエルの子守を仕事としていた。 豊かな教養、良家の淑女のごとき完璧なマナーを身につけていたエレノアは、その才智をみこまれ、ルシエルが成長してからもそのまま家庭教師としてこの家に残った。
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