第5章 クールラント一族

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(今頃ディコンは、腹をすかせていないだろうか? 飲み水は足りているだろうか? 退屈しすぎて、ふらふら地下から出歩いたりしていないだろうか? エレノアの策略によって、馬屋が取り壊されることになったら、これから彼をどうかくまっていけばいいのか‥‥。) ディコンと遭遇してからというもの、なぜ彼を助けてしまったのか、とルシエルが自問しない日はなかった。 自分にとってこの状況は、破滅につながる。 なぜそんな危険を冒してまで、あの子を自由にしてやりたい、などと思ってしまったのだろう。 (似ているから?―――居場所のない自分と。) 不意に父の声が沈黙を破った。 「ひととおりエレノアの報告は受けているが、学業と武芸のほうはどうだ?」 はじかれたように顔をあげるルシエル。 そこで初めて、自分が父の視線を避けて顔を伏せていたことに気づく。 「学業は、エレノアからお聞きのとおりです。 武芸のほうは‥‥ご覧ください。」 ルシエルは優勝旗を右手で指す。
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