第5章 クールラント一族

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わかっているな、と念を押し、見下ろすように正面から指差される。 肘から弧を描くその動作に、ルシエルは思わずびくっと怯え、身を引いて椅子から落ちかかる。 父親の右手に、馬用の鞭(むち)が握られているのが見えた気がしたのだ。 振り下ろされたあとの火傷に似た激痛。 幼い頃の忌まわしい記憶が、彼の脳裏に瞬時によみがえったからだった。 「私が恐いのか? 十五にもなって、お前はあいかわらず意気地なしだな。」 愉快そうな笑い声。 呆然として見上げる先には、自分とよく似た顔がかたちづくる、くったくの無い笑顔。 自分より弱いものを虐げるのは、楽しいに決まっている。 (だってここは、化け物の巣窟。 ―――残酷な世界じゃないか。)
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