第6章 秘密を守る領民

3/27
前へ
/335ページ
次へ
あわてて地図に目を落とすが、そこには記載されていない。 (地図に無い店‥‥。) 周囲の商店の華美な外装の中で、隠れ家のようにひっそりとした佇まい。 看板も煤けて読みとれず、一見すると店とは思えない。 この街にはあまり似つかわしくない風情だと思う。 「武器を見たいんだが。」 先ほどの店員に一声かけて、アルシュは店内をのぞきこむ。 まだ若い店員は、とまどった表情をうかべた。 「え? あ、あの、お客様はどういう‥‥。 どこかのお屋敷の用心棒かなにか‥‥?」 そんなことを言われたのは、この店が初めてだった。 大概の店では、年恰好から武芸を学ぶ学生扱いだったからだ。 「俺か。俺は‥‥保安予備隊の‥‥。」 言いかけてから、保安予備隊の腕章をしてこなかったことを思い出した。 あたり一帯の武器商では、すでに保安部隊の聞き込みは済んでいる。 相手に不信感や警戒心を抱かせないよう、あくまで私人として聞き込むつもりで、自分で外してきたのだった。
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加