77人が本棚に入れています
本棚に追加
当初の意図を忘れて、おもわず仮の身分を口にしてしまったのは、空腹と疲労そして同じような聞き込みの連続で、集中力が切れかかっていたからだろう。
(余計なことを言って警戒させてしまったか?)
そんなアルシュの心配をよそに、店員はほっとしたように訳知り顔でうなずいた。
「ああ、あっちね。あっちの隊員さんね。」
愛想のいい顔で笑って、店の奥へ歩を促す。
「見てってくださいよ。
ここは、子供の玩具は無し。
命を預けられる逸品ばかりですよ。」
アルシュは店内へ進みながら、さりげなく店員の様子をうかがい見る。
服装にはあまり気を使わない性分なのだろう。
袖の汚れたシャツに分厚いカンバス生地の前掛けをしている。
実務的だが、貴族や富豪の接客ができる服ではない。
今まで回った武器商は、アルシュのような十代の若者相手に必要以上に慇懃(いんぎん)な態度の店が多かった。
普段、貴族の子弟を客としているのだろうと思っていた。
それだけに、この店の様子と店員の態度は、あきらかに今までとは違うものだった。
最初のコメントを投稿しよう!