第6章 秘密を守る領民

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当初の意図を忘れて、おもわず仮の身分を口にしてしまったのは、空腹と疲労そして同じような聞き込みの連続で、集中力が切れかかっていたからだろう。 (余計なことを言って警戒させてしまったか?) そんなアルシュの心配をよそに、店員はほっとしたように訳知り顔でうなずいた。 「ああ、あっちね。あっちの隊員さんね。」 愛想のいい顔で笑って、店の奥へ歩を促す。 「見てってくださいよ。 ここは、子供の玩具は無し。 命を預けられる逸品ばかりですよ。」 アルシュは店内へ進みながら、さりげなく店員の様子をうかがい見る。 服装にはあまり気を使わない性分なのだろう。 袖の汚れたシャツに分厚いカンバス生地の前掛けをしている。 実務的だが、貴族や富豪の接客ができる服ではない。 今まで回った武器商は、アルシュのような十代の若者相手に必要以上に慇懃(いんぎん)な態度の店が多かった。 普段、貴族の子弟を客としているのだろうと思っていた。 それだけに、この店の様子と店員の態度は、あきらかに今までとは違うものだった。
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