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アルシュは平静を装い、話を続ける。
「そうか。よそでは話にならなかった。
例の強盗に対抗するならこの店だったら、何を薦める?」
「よそじゃね。護身用の短剣だの、刺股(さすまた)だの売りつけられるのがオチですよ。」
店員が饒舌になってアルシュを帳場へ案内する。
「まあ、間違いじゃないですよ。
素人さんは怪我しないのが一番ですから。」
入り口の狭さに反して、店内は意外な広さがあり、数人の客が商談中のようだった。
店の内部も「隠れ家」という名がふさわしいようにアルシュには思えた。
薄暗く冷え冷えとする石張りの床の一角に、色の褪せた毛のじゅうたんが敷かれている。
その上に置かれた対面のソファに、四、五人の男たちが腰掛けて何か話しこんでいる。
傍では店員と同じ前掛けをした禿頭の男が、立ったまま愛想よく話を受けている。
あれがこの店の店主らしい。
帳場の前に立つアルシュに、若い店員が話しかける。
「あれでしょ。『蛇使いの男』、あいつとやりあえるものがご希望で?」
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