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「身元を言えないなら、保安部隊の詰め所に連れて行くけど、それでいいのか?」
「それだけは‥‥。」
か細い声をしぼり出すように言うと、ルシエルの足にすがりつく。
そのままずるずると地面に倒れこんでいく。
痩せた片手をつかんで引き起こし、頭の麻袋を少しずらすと、ルシエルはまじまじと生気の無い顔を眺めた。
「脱水と栄養失調か。ご苦労様だな。」
細い路地のつきあたりにあるその井戸は、古びて人気も無かった。
外見上、周囲の白木の柵だけはこぎれいにできているが、その内側はすっかり寂れていた。
ルシエルは、生い茂る雑草を踏みわけて井戸に近づき、釣瓶の縄をつかんで何度か引っ張った。
釣瓶竿が腐っていないことを確かめると、桶を落とす。
確かな水音がした。
「ここは共同井戸。
昔は使われていたみたいだけど、ここの住人はみんな裕福で自宅の敷地内に井戸持っているから、今はこんなの使う人はほとんどいない。
忘れ去られた井戸。誰も寄りつかない。
だから安心してそれ取ってみろよ。」
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