第3章 シャルマン領区の守護天使

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ルシエルに促され、袋の主は水の入った手桶を口元から外し、麻袋を脱ぐ。 ご丁寧にも、頭から被る部分と足にはめていた部分、二つに分かれていたらしい。 昼間はひたすら手足を引っ込めて人目をやり過ごしていたようだ。 性別は男。 身長はルシエルより少し低い。 身に着けているものはほとんど下着のみだった。 南方の出身なのか肌の色は明るい褐色をしている。 髪の色は薄いので、あるいは混血かもしれないとルシエルは思う。 重労働従事者らしく指の関節がふしくれだっている。 両腕と背中には刃物で切ったような切り傷が無数についていた。 「名前は?」 「‥‥勘弁して下さい。」 「さっきも言ったけど、身元がわからないんじゃ、突き出すしかないんだけど。」 黙りこむ。 「じゃあ、どこか逃げるあてでもあるの? どこへ逃げるつもりなの?」 「あては無いです。」 「は?」 ルシエルはあきれて腕を組む。 「帰れ。お前、雇い主のとこ帰れ。 野垂れ死にするだけだぞ。 この街は警備も厳しいし、この領区から脱出するのがどれだけ大変か、お前わかってないだろ。 雇い主から捜索願が出されたら、捕まるのなんか時間の問題だ。」
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