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ルシエルに促され、袋の主は水の入った手桶を口元から外し、麻袋を脱ぐ。
ご丁寧にも、頭から被る部分と足にはめていた部分、二つに分かれていたらしい。
昼間はひたすら手足を引っ込めて人目をやり過ごしていたようだ。
性別は男。
身長はルシエルより少し低い。
身に着けているものはほとんど下着のみだった。
南方の出身なのか肌の色は明るい褐色をしている。
髪の色は薄いので、あるいは混血かもしれないとルシエルは思う。
重労働従事者らしく指の関節がふしくれだっている。
両腕と背中には刃物で切ったような切り傷が無数についていた。
「名前は?」
「‥‥勘弁して下さい。」
「さっきも言ったけど、身元がわからないんじゃ、突き出すしかないんだけど。」
黙りこむ。
「じゃあ、どこか逃げるあてでもあるの?
どこへ逃げるつもりなの?」
「あては無いです。」
「は?」
ルシエルはあきれて腕を組む。
「帰れ。お前、雇い主のとこ帰れ。
野垂れ死にするだけだぞ。
この街は警備も厳しいし、この領区から脱出するのがどれだけ大変か、お前わかってないだろ。
雇い主から捜索願が出されたら、捕まるのなんか時間の問題だ。」
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