第3章 シャルマン領区の守護天使

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「‥‥もといた場所には帰れないんで。」 「もといた場所ってどこだよ。」 「あの、突き出さないって約束してもらえますか?」 おずおずと聞く少年の喉をルシエルは思い切りわしづかみにした。 「お前に選択権は無いんだよ。」 耳元に冷酷な声を吹きこむ。 手を離すと、少年はうずくまって咳きこんだ。 その様子をルシエルは愉悦のにじむ顔で眺める。 「これ以上手間かけさせるなよ。」 吐き捨てる。 「ぎ、行商隊の、み、見世物小屋から。 名前は、ディコン。そう呼ばれていたから。」 「ふうん。見世物小屋、ね。 何か特技があるんだ。」 「特技っていうか、体質っていうか‥‥。」 「見せてよ。」 ルシエルがにこりと笑う。 「い、嫌です。それが嫌で俺は‥‥。」 その喉がもう一度つかまれ、井戸のふちに押しつけられる。 「学習しねえな。 俺は、頭の悪い子は嫌いだよ。」 覆いかぶさるルシエルの、美しいのに感情の見えない瞳。 息苦しさと井戸に落ちる恐怖で、ディコンの体が震えあがる。 その様子を見て、ルシエルは今一度、極上の笑みをうかべた。 新しい玩具を与えられた幼子のような無邪気さだった。
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