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「‥‥もといた場所には帰れないんで。」
「もといた場所ってどこだよ。」
「あの、突き出さないって約束してもらえますか?」
おずおずと聞く少年の喉をルシエルは思い切りわしづかみにした。
「お前に選択権は無いんだよ。」
耳元に冷酷な声を吹きこむ。
手を離すと、少年はうずくまって咳きこんだ。
その様子をルシエルは愉悦のにじむ顔で眺める。
「これ以上手間かけさせるなよ。」
吐き捨てる。
「ぎ、行商隊の、み、見世物小屋から。
名前は、ディコン。そう呼ばれていたから。」
「ふうん。見世物小屋、ね。
何か特技があるんだ。」
「特技っていうか、体質っていうか‥‥。」
「見せてよ。」
ルシエルがにこりと笑う。
「い、嫌です。それが嫌で俺は‥‥。」
その喉がもう一度つかまれ、井戸のふちに押しつけられる。
「学習しねえな。
俺は、頭の悪い子は嫌いだよ。」
覆いかぶさるルシエルの、美しいのに感情の見えない瞳。
息苦しさと井戸に落ちる恐怖で、ディコンの体が震えあがる。
その様子を見て、ルシエルは今一度、極上の笑みをうかべた。
新しい玩具を与えられた幼子のような無邪気さだった。
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