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マッチをすり、燭台に火をともす。
ディコンが、びくびくしながら照らし出される土壁を見回す。
壁にくっついていた大きな蜘蛛が、あわてて部屋の隅の暗がりへ逃げていく。
「何のために、人が入れるようにしたんですか?」
ルシエルはマッチの火を消し、蝋燭(ろうそく)の不安定に揺れる火を眺める。
「‥‥泣く場所を作るためにさ。
名門貴族の息子で、名のある軍人一家の跡取りで、非の打ち所のない立派なお坊ちゃんが、家族や使用人隠れて声を上げて泣く場所を作るためにさ。」
ルシエルの彫像のようになめらかな横顔が、暗がりに浮かぶ。
ディコンは黙って見つめる。
ルシエルは何か振り払うように、額にかかる長めの前髪を後ろへ押しやると、小さな組み木の盆の上に、シミ一つ無い白いハンカチを広げて、その上にパンとチーズと角砂糖を並べていく。
「夕食の支度が始まってて台所に人が多いんだ。
こんなものくらいしか取って来れなかった。我慢しろよ。
とりあえず、弱ってる時は甘い物だろ。」
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