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ディコンの喉がごくっと鳴る。
「食べていいんすか?」
ルシエルはうなずく。
手を出しかけて、
「あ、あの、ここから取っていいんすか?」
また確認する。
伸びきった前髪の隙間から、警戒心の強い野生動物のようにうかがい見ている。
「あ、あの、でも‥‥。」
「お前、なんなんだよ。まだるっこしいな。」
いらだつルシエルに、ディコンがびくっと身を縮める。
「お、俺、いつも食事は床に撒かれてたんで。」
言ってから、急に恥じ入るように顔を伏せる。
「家畜みたいな扱いだったんで。」
ルシエルが無言でディコンの手をつかみ、パンを握らせる。
ディコンは、信じられないものを見るように呆然とその動作を見守った。
「あ、りがとうございます。」
そして目を潤ませてパンを口に運ぶ。
始めはおずおずと、やがて空腹が食事を無心にさせる。
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