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こともなげに語ってディコンはへへへ、と笑う。
ルシエルが初めて見るその笑顔は、上目遣いの卑屈な表情だった。
「今まで、よく脱走に失敗したんすよ。」
また、へらりと笑って頭をかく。
ルシエルはへこんだ錫(すず)の水筒を差し出す。
中には冷たい井戸水が満たされている。
ディコンはちょっと頭を下げてから、喉を鳴らして飲んだ。
ルシエルはナフキンの包みを開き、肉のパテの挟まったパンを取り出して盆に載せる。
蒸かした芋が一つ。りんごが一つ。
「お前、いつから見世物小屋で働いてるんだ?」
「さぁ、ものごころついたころからいるんで、赤ん坊に近い頃からじゃないすか?
小屋の連中には、両親が売ったって聞かされてます。
俺が気持ち悪くて育てられなかったんでしょ。
その気持ちはわからなくもないかなって思います。」
「‥‥そんなことわかろうとすんなよ。
みじめったらしくなるから。」
ルシエルの声には少し怒りが潜んでいるようで、ディコンは黙った。
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