第4章 いびつな双子

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こともなげに語ってディコンはへへへ、と笑う。 ルシエルが初めて見るその笑顔は、上目遣いの卑屈な表情だった。 「今まで、よく脱走に失敗したんすよ。」 また、へらりと笑って頭をかく。 ルシエルはへこんだ錫(すず)の水筒を差し出す。 中には冷たい井戸水が満たされている。 ディコンはちょっと頭を下げてから、喉を鳴らして飲んだ。 ルシエルはナフキンの包みを開き、肉のパテの挟まったパンを取り出して盆に載せる。 蒸かした芋が一つ。りんごが一つ。 「お前、いつから見世物小屋で働いてるんだ?」 「さぁ、ものごころついたころからいるんで、赤ん坊に近い頃からじゃないすか? 小屋の連中には、両親が売ったって聞かされてます。 俺が気持ち悪くて育てられなかったんでしょ。 その気持ちはわからなくもないかなって思います。」 「‥‥そんなことわかろうとすんなよ。 みじめったらしくなるから。」 ルシエルの声には少し怒りが潜んでいるようで、ディコンは黙った。
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